銀塩写真の現像について
目次
はじめに
この記事は銀塩写真 Advent Calendar 2020の12月2日の記事になります。
前回の記事は私の銀塩写真の原理についてでした。
フィルムの現像の手順
現像と聞くとこのイラストの様に赤い照明の暗室で行われると思っている人も多いかもしれませんが、フィルム現像で赤い照明が使えるのは昔のオルソクロマチックフィルムまでで、現在のパンクロマチックの白黒ネガフィルムやカラーフィルムでは赤い光にも感光してしまいます。白黒写真の印画紙はオルソクロマチックなので、白黒ネガフィルムの写真を紙に焼くときには赤い光が使えますが、カラーの印画紙にプリントするとなると非常に暗い緑色の安全灯を使うか全暗黒下1で作業を行うかになってしまいます。
ただ、世の中には簡易暗室ともいうべきダークバッグというものがあり、これを使うとフィルムをタンクの中のリールに巻いてタンクにセットするぐらいはできます。フィルムを現像タンクに装填できれば後は普通の照明の下でも作業ができるというわけです。
フィルム現像に必要な道具
次の写真は、私が持っている現像タンクでのフィルムの処理を行っているところの写真です。
フィルムの現像には、だいたい以下のような道具が必要です。
- 現像液
- 停止液
- 定着液
- 水切り剤
- 現像タンク
- リール
- ダークバッグ
- フィルムピッカー
- はさみ
- フィルムクリップ
- ビーカー3個
- 撹拌棒
- 水温計
- ネガフィルムを保管するもの
- フィルムスキャナー
- フィルムをスキャンするためのソフトウェア
- 画像を加工するためのソフトウェア
- スマートフォン
- 暗室タイマーアプリ
- 時間の余裕
あと、以下のようなものがあるとよいです。
- メスシリンダー
- ゴム手袋
- 薬液保管用ボトル
- 水洗促進剤
- 白手袋
これらの予算ですが、フィルムスキャナーを除いて2万円ぐらい出せば手に入るかと思います。また、ヤフオク!などで中古品を狙うのもありです。実際私はほとんどヤフオク!を使って1万5千円ぐらいで道具をそろえました。
実際の現像手順
さて、ここからは実際の現像の手順を紹介します。
フィルムをパトローネから取り出す
撮影が終わったとき、フィルムは全てパトローネに巻き取られていると思います。そのため、フィルムピッカーという道具を使ってパトローネからフィルムの先端を2cmぐらい取り出します。取り出した部分については何も写っていないと思うので、光に当てても問題ありません。
フィルムの先端を2cmぐらい取り出せたら、現像タンクとリール、はさみとフィルムをダークバッグに入れておきます。
フィルムを現像タンクに装填する
さて、フィルム現像で一番大変なところがフィルムを現像タンクに装填するところです。現像タンクにはプラスチック製のものとステンレス製のものがあり、私はキングのプラスチック製のものを使っています。このタンクは回転によって撹拌できるので、薬液をこぼす心配が減ります。また、使う薬液の量も多いので現像ムラが防げると思います。残念なのはもうすでに生産が終わっており、購入する場合はヤフオク!などを使わざるを得ません。
現像タンクに装填するリールにもいろいろタイプがあります。両溝式と片溝式、ベルト式とオートローディング式の4種類がありますが、初心者はオートローディング式を選んでおけば問題ないらしいです。このオートローディング式は手で軽くひねるとフィルムがくるくるとリールに巻かれていくもので、ポピュラーな135フィルムとより大きな120フィルムの両方を巻けるリールもあったりします。私はキングの片溝式を使っているのですが、片溝式や両溝式はうまく巻けるようになるまで何回も練習する必要があります。しかもこれらの作業はダークバッグの中で手探りで行う必要があります。これができるようになるまで、私も何本もフィルムを無駄にしました。
リールにフィルムを巻き終わったら、ダークバッグの中で現像タンクにリールを取り付けてふたをします。これができるともうタンクの中に光は入らないので日が当たるところでも作業できるというわけです。
現像液を注ぐ
さて、ここからは時間との勝負です。現像・停止・定着の各工程は定められた時間を守って作業を行う必要があります。もし、時間が短かったり長かったりすると化学反応の程度が変わってしまい、現像が失敗する原因になってしまいます。本来は暗室用のタイマーがあるらしいのですが、私はスマートフォンに暗室タイマーアプリをインストールして時間を計ります。私が使っているのは「Develop!」というアプリです。そのためにも、使うフィルムと現像液に対応した現像時間を調べておくことが必要です。なお、現像時間の横に「30/60/1」などの表記があるかと思いますが、これは「最初の30秒は連続撹拌、そのあとは60秒に1回撹拌」という意味です。
それと共に、これからの現像・停止・定着の各工程で使う薬品を作ります。化学反応をうまく起こすには、規定の分量を守って薬品を調製する必要があります。粉末の薬品の場合は前日に作っておくと現像ムラが少なくなるようです。液体の薬品の場合は成分が変化しやすいので直前に調製します。
暗室タイマーに各処理の時間をセットして薬品を作り終わったら、タンクに現像液を注ぎます。最初は気泡を残さないようにタンクを軽く机にたたきつけたあと、定められた時間連続して撹拌を行います。普通のタンクの場合は液がこぼれないようにしっかり持ったら上下を逆にすると撹拌できます。私が使っているキングのタンクの場合は軸を回すことで撹拌します。私は上下を逆にする撹拌方法1回につき1回軸を回す感じで撹拌しています。最初の連続撹拌が終わったら、定められた時間インターバルを置いて撹拌していきます。最後も時間内に現像液を排出する必要があります。
停止液を注ぐ
現像液を排出し終えたら、すぐに停止液をタンクに注ぎます。これは反応を止めることが目的なので、撹拌して30秒もしたら排出してOKです。
定着液を注ぐ
次の定着液も、現像のときと同様に時間をきっちり計って行う必要があります。定着工程は5分から10分でできるのですが、イーストマン・コダックのT−MAXやイルフォードのDELTA、富士フイルムのACROS IIやフォマ・ボヘミアのFomapan 200など粒子を細かくしたフィルムの場合は銀が多く使われているため少々長めに定着を行う必要があります。所定の時間内に定着液を排出し終えたら、フィルムは光に晒しても問題ありません。ここで、撮った写真とご対面、というわけです。
ちなみに、私は定着液はスーパーフジフィックス-Lを使っています。この定着液はチオ硫酸ナトリウムの代わりにチオ硫酸アンモニウムが使われており定着時間が短くて済む上に、ゼラチンの表面に硬い膜ができるのでフィルムが傷つきにくくなるというメリットがあります。ただし水洗時間は長くなってしまうという欠点はなんとかしなければ、と思います。イルフォードのラピッドフィクサーにはゼラチンを硬化させる成分が入っていないためフィルムが傷つきやすくなってしまいますが、水洗は5分から10分で済みます。スーパーフジフィックス-Lは1:2、イルフォードのラピッドフィクサーは1:4に薄めて使用します。
フィルムを流水で洗う
さて、フィルムのチオ硫酸ナトリウムを洗い流せば保存に適したフィルムになるのですが、この水洗をしないと画像がどんどん劣化していってしまいます。これを防ぐためには流水で30分はフィルムを洗う必要があります。水洗時間が長いということは水をたくさん使うということなので、だいたい家族に怒られます。ここで水洗促進剤を使うと水洗時間が減るのですが、処理しなければいけない廃液の量が増えます。また、富士フイルムの富士QWは粉末状なので2リットルの水に溶かす手間がいります。水洗促進剤を2リットル作ると私の現像ペースではだいたい使い切れないという問題もあります。環境のためにも使いたいのですけどね……。
フィルムの水滴対策
フィルムの水洗が終わったら、フィルムを水切り剤に漬けます。これはフィルムに水滴が残ると模様のようになって残ってしまうので、界面活性剤を使って水滴の形で水分を残らせないようにするためです。フィルム用のきめの細かいスポンジがあれば水滴を拭うこともできますし、もしかすると食器用洗剤で代用できるかもしれません。
フィルムを乾燥させる
ここまで来れば一安心と思いたいのですが、清潔な環境でフィルムを乾燥させる必要があります。フィルムには意外とチリやホコリが付きやすいのです。チリやホコリが付いてしまうとやはり画像をスキャンするときに影響が出ます。
さらに、乾燥で大事なのがフィルムの反り対策です。洗濯ばさみで吊り下げておけばよいと思った方もいると思いますが、そうすると反るらしいです。なので、フィルムを乾燥させるときにはフィルムクリップというおもりを吊り下げて乾燥させます。そうするとフィルムが反らないというわけです。この乾燥は大体1〜2時間かかります。乾燥が終わったらフィルムは6コマごとに切るとみなさんお馴染みのネガフィルムが完成する、というわけです。
フィルムをスキャンし、PC上で画像処理を行う
さて、銀塩写真を鑑賞するにはネガフィルムを見れば終わりではありません。ネガフィルムはネガ画像なので、これを人間の目に見えるようにするには印画紙2にプリントするかPCに取り込んで画像処理をするかしなければいけません。しかし、印画紙にプリントするにはちゃんとした暗室が必要です。なので、私はいつもPCに取り込んで画像処理をかけています。
私が持っているフォトスキャナーはサンワダイレクトの400-SCN006です。これはスキャンしたときに画像の調整を行ってくれるソフトウェアが付いているのですが、私の環境(macOS Catalina)だと古すぎて使えない3のです。幸いなことに、この400-SCN006はmacではWebカメラとして認識してくれます。ということは、Webカメラの画像をキャプチャするソフトウェアがあればネガ画像ながら取り込むことができます。FonePaw Screen Recorderというソフトウェアを使ってネガ状態で取り込みます。
この画像を反転するにはAdobe PhotoShopとかGIMPとかで一枚一枚作業してもよいのですが、フィルム2本分の72枚を一度に何とかしようとするとけっこう大変な作業になります。なので、私は自作のPythonスクリプトを使って処理しています。使い方は次の通りです。
$ pip install pipenv
$ pipenv install
$ pipenv shell
$ python darkroom.py -m -n
このスクリプトは次のような機能があります。
- 画像の色の反転(
-n
オプションをつける) - 画像のグレースケール化(
-m
オプションをつける) - gray worldアルゴリズムとstretchアルゴリズムによる画像の色調調整(
-s
オプションをつける) - 全自動の画像色調調整(
-c
オプションをつける) - 画像のガンマ補正(
-g
オプションの後に数値を指定する) ※要調整 - 画像の対数補正(
-l
オプションの後に数値を指定する) ※要調整
なお、作例として私のデスクの写真を載っけてみます。
廃液を処理する
と、ここで残ったものについて処理を考えなければいけません。そう、それは化学薬品の廃液です。廃液は酸性の溶液(停止液や定着液など)と塩基性の溶液(現像液など)に分けてポリタンクに保存しておきます。ここで水道に流せばよいと思った方がいるかと思いますが、それは一番やってはいけないことです。ヨドバシカメラには、「写真廃液は産業廃棄物です。処理業者に依頼してください!」と注意書きが張られていました。写真店や学校のクラブ活動、医療施設4など「業務」として現像を行っている場合は産業廃棄物処理業者に依頼して廃棄してもらうのが一番よいと思います。
しかし、個人の場合は大変でした。まず、私の住んでいる市5の市役所に産業廃棄物処理業者について問い合わせたところ産業廃棄物処理業者を紹介してもらったのですが、その業者に問い合わせたところ「個人」向けの回収はやっていないとのことでした。そこで市役所に写真廃液の処理方法について問い合わせたところ、「ぼろきれなどに吸わせて燃えるゴミとして処分してください」という回答を得ました。そこで家にあったペットシート6に廃液を吸わせて燃えるゴミに出して事なきを得たのです。なお、これらの廃液には銀イオンが溶けているので銀を回収してしまいたいところですが、現状手立てがない状態なのでどうしたらよいものか困ってしまいます。なお、廃液1リットル中にはだいたい0.5グラムの銀が溶けているらしいです。この銀の回収方法でよいアイディアがありましたらご連絡いただけると幸いです。
おわりに
と、ざっと書いてみましたが、意外と銀塩写真の現像って面白くできます。何せ、自分で画像を手で作っているというドキドキ感がしてきて、デジカメにはない面白さがあると思います。この楽しみを自家現像で体験してみませんか?
次回の記事は、現在未定です。今後もよろしくお願いします。
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